原口クリニックは山梨県甲斐市の 内科 糖尿病 透析 腎臓内科 甲状腺 巻き爪 の専門病院です。

原口内科・腎クリニック

  院内だより

 

第3号 平成8年3月

『人は何故太るのか?』

 少し前のことになりますが、本年1月末に大阪豊中市で「肥満症研究の最前線」と題したシンポジウムが開催されました。会場のホールは、聴衆で満杯でした。
 そして、驚くべきことは高度の医学的最先端を取り扱うシンポジウムに大学医学部、製薬会社の研究者、学生に交じって多くのジャーナリスト、化粧品会社、畜産関係者が入っていたことです。女性の決して尽きることのない欲望は「美しくやせる」ことだそうですから、ダイエットは偽薬にしろ痩身美容にしろ金のなる木です。ジャーナリストや化粧品会社の人が参加していることは当然でしょう。
 ところが一方で男女を問わない強い欲望は「食欲」です。「霜降りの脂肪ののったおいしいお肉を食べたい!」まさに、この願いを叶えるために、畜産関係者は日夜努力を続けるわけです。この「美しくやせたい」あなたと「おいしい肉を食べたい」あなたは2つの欲求の狭間に立って苦しみ無名地獄におちてしまいます。ましてあなたが糖尿病でも持っていようものなら、おせっかいな医者、看護婦、栄養士と揃って美食は敵とばかりに、親切な(余計な?)アドバイスを送ってくれます。困ったあなたは、効果などないとわかっている、○○茶やら、○○草やら果ては自分のおしっこまで飲んで、苦しみから抜け出そうとすることになります。また、無理なダイエットから拒食症や骨粗鬆症になったり、命をおとす人も後を絶ちません。科学はそんなあなたを手をこまねいて見捨ててしまうのでしょうか? いえそんなことはありません。
 昨年一流の科学雑誌に発表された肥満に関する2つの大きな成果を今回はお話ししましょう。

I) レプチン

 欧米人の肥満は日本人の比ではありません。それだけに、彼等の肥満研究にかける情熱には脱帽します。30年前に太ったネズミとやせたネズミの胴体を縫い合わせるという実験から、太ったネズミの血中には、食欲をおさえる物質があることがわかっていました。それを発展させ更に太った系統のネズミ(ob/ob)を作り出し、気の遠くなるような遺伝子操作をし、ついに食欲抑制物質のOB遺伝子が見出されました。このOB遺伝子でできる抑制物質はレプチンと呼ばれています。
 そこでこのレプチンを好きな時に飲めば、食欲がなくなり無理せず痩せられるというわけです。アメリカではすでにこのレプチンを使った試験が始まっています。昨年、テレビでも紹介されましたので、覚えている方もいるかもしれません。このOB遺伝子は脂肪組織に多量にみられます。
 したがって、私たちの体は太ってくると、脂肪が増えて、自分自身にも太っちゃいけないと赤信号をだしているわけです。
 赤信号を無視して渡っているのは、私たちの尽きぬ食欲のせいのようですね。

II) ベーター3受容体

 さて、お腹のまわりや、お腹の中の皮下脂肪は私達が食物から摂ったエネルギーを貯蔵しているだけではありません。飢餓の時や、病気での食事のとれない時、体に栄養を供給する大切な役目を持っています。普通はこの貯蔵と栄養供給のバランスがうまくとれるようになっています。
 ところが、世の中にはどうしても太ってしまう人がいます。必要以上に栄養をため込んでしまうわけです。こんな人の中にベーター(β)3受容体の遺伝子異常の人が含まれることがわかりました。この異常を持つ人は脂肪をとりくずして、栄養を使うことができません。
 したがって、太る一方になってしまい手の打ちようがありません。このような方は糖尿病になりやく、日本人にも数パーセント存在します。
 ところが、これを逆手にとった新薬が開発されています。脂肪だけあるベーター3受容体を刺激する薬剤が考えだされたのです。これを使えば身体の他の部分には全く影響なく痩せることができます。この悪魔のように最新で魅力的な新薬もいつかみなさんの手許に届くことでしょう。
僕の所属する山梨医大第三内科でも脂肪細胞を使った研究が盛んです。いつか臨床的に役に立つ研究も生まれてくるでしょう。
 皮下脂肪と違って、内蔵脂肪の多い人(お腹の太った人)は血圧も高く血中脂肪(コレステロール、中性脂肪)も高く、心臓病を合併して死亡率が高いことが知られています。
 人は何故太るのか? 人は何故自由に痩せられないのか? 答えは簡単には得られませんが、太りすぎることと痩せすぎることの危険性を良く知ることがまず第一歩だと思います。

 花見のシーズンです。
 食べ過ぎの見過ぎに注意して健康に過ごしましょう。

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