記録的な暖冬が過ぎてすっかり春になりましたね。 春と言うと入学のシーズンです。 実は、僕は今年、久しぶりに大学入試の面接試験官をしました。限られた時間の中で自分の力で人生の扉を開こうと全力を尽くす若者達の緊張した横顔を見ていると、自分の中を通り過ぎた時間を思い出します。 ほんのちょっとした違いで希望に満ちた春を迎えられる若者とそうでない者とに別れるのです. 春は一人一人の人生の分かれ道が交差して出会いと分かれを迎える季節です. 厚生連健康管理センターの糖尿病外来でも皆さんの人生の少なからざる時間と交差しながら或は並走しながら診療に当たらせてもらっています. 常に皆さんの健康に少しでも貢献できる診療体制でありたいと思っています.
私も人生の分かれ道で決断の時を迎えており“お元気ですか?”を執筆させて頂くのも今回が最後になります。 長い間有り難うございました. 今日は今まで余り取り扱って来なかった運動の分野についてお話ししたいと思います. 内容は2007年2月にベルクラシックで県庁の職員の方を対象として行なった当健康管理センターによる健康診断の説明会の講演をまとめた物です。
▼代謝症候群
日本人は実に多くの病気を抱え込んでいます。 厚生労働省の資料によると日本人3.5人に1人が高血圧、6人に1人が高脂血症,8人に1人が耐糖能異常を持っています。 そのような多くの病気の元になっている元凶が高齢化とメタボリック症候群の蔓延です。 日本人の5人に1人が65歳以上の高齢者となっておりこれからもその割合は2020年まで増え続けるとされています。 少子高齢化は国と国民の繰り返された選択の結果で今更変えようのない事実です。 しかしメタボリック症候群に対してはまだ有効な対抗策があります。 表1に示した様にメタボリック症候群は肥満、高血圧,高血糖、高脂血症の要素を少しずつ加味して定義されています。 必須事項は腹囲(=肥満)が男性85cm、女性で90cm以上ある事です。 肥満の頻度は60歳代の男性では20年前の1.5倍になっており生活習慣病の温床です.肥満のうちでもたちの悪い上半身肥満の頻度は40歳代で見ると男性は女性の約3倍になっています。その事がそのまま男性の高い代謝症候群の頻度に結び付いています。 アメリカでも代謝症候群の患者さんは糖尿病の有る無しに関わらず心筋虚血(狭心症など)の頻度が高い事が知られています。 日本でも脳梗塞になる確率が高まる事が知られています。 さて、コンピューター世代の若い皆さんには少々耳の痛い話があります. グラフ①は「Obesity Research=肥満研究」という雑誌に2005年に掲載された論文のデータです.横軸には『平日に仕事以外で,ゲームをしたり,DVDを見たり、コンピューターで作業をした時間』が示され、縦軸には『代謝症候群の発症頻度』が表してあります。机にばかり向かって目と頭を集中的に使う作業や娯楽を長時間続けると代謝症候群になり易いと言う事が一目瞭然で分かりますね。
▼運動により減少する死亡率
さてこの代謝症候群への有効な手段は何でしょう。 食事(摂取カロリーの抑制)と並んで運動が注目されています。 グラフ②に面白いデータを示します。これは「Lancet」という有名な医学雑誌に1998年に載った論文です。住民検診を行ない研究開始時と13年後(=研究終了時)運動能力のレベルと死亡率を比較したものです。 グラフでは棒が高いほど死亡率は高くなります。 これを見るとAの研究開始時も13年後も運動能力の高い群=よく運動していた群は非常に死亡率が低くなっています。しかしBの開始時も13年後も全く運動していないグループの死亡率は極めて高くなっています.ではC群を見ましょう。この群は研究開始時にはほとんど運動していませんでしたが途中で改心して(?)運動を始めたグループです。かなり死亡率が低く抑えられている事が分かりますね。 皆さんも今からでも遅くありません.運動を始めましょう。
なお、このデータを詳しく解析すると高血圧,糖尿病,喫煙、肥満,高コレステロール血症などどんな病気を持っている人に於いても運動により死亡率が激減する事が認められました。
▼どんな運動をしたら良いか?
ではどんな運動をしたら良いでしょうか? それは皆さんの年齢と年齢に合った運動の目的によります。 グラフ③を見て下さい。 グラフの中の赤い線は人間の体力を示しています。私達が運動を行なうとこの赤い線は上方に移動します。 さて、30歳を過ぎると体力は次第に衰えていきます。しかし、この時期はスポーツの種類によってはまだ現役で競技を続ける事が出来ます。しかし、40半ばになると運動能力は衰えてもっぱら活動的な生活を送る(=元気に仕事をする,元気に子育てをするなど)為の行動体力の保持向上を目指して体を鍛える事になります。 60歳を超えると日常生活に必要な体力を温存し,衰えさせない事が必要です。つまり、この時期の運動は出来るだけ介護の世話にならないで済む様に体力をつける事が目的になります。さらに年齢が進み80歳に近づくと残っている体力は更に衰えますので,これを如何にして残して寝たきりにならない様にするかが大切になってきます。現在、健康管理センターの外来に通院中の患者さんは年齢的には40歳代から70歳代の方が多いようです。そうすると運動の目的は上記の様に全ての人で異なるという事になります。 更に、個人差,個別の運動の目的、などを考慮しつつ運動指導が必要です。 更に,実際の臨床では糖尿病による心機能障害の有無、足の閉塞性動脈硬化症の有無など色々な因子を考え合わせて運動処方が決められなければなりません。 幸いにも厚生連には優秀な運動指導士がいます。 具体的な運動の内容に関しては是非外来で私達に相談して下さい。
以上、本日は久しぶりに運動についてまとめてみました。 参考にして頂けると幸いです。 |