原口クリニックは山梨県甲斐市の 内科 糖尿病 透析 腎臓内科 甲状腺 巻き爪 の専門病院です。

原口内科・腎クリニック

  療養一口メモ ~糖尿病~

 
再生医療

 「先生、お元気ですか? 再生医療について今度の受診の時に詳しく教えて下さい。」 — ある日、大学の僕宛に飛び込んで来たEメールです。メールを送って来たのは30代前半の女性で数年前から1型(昔のインスリン依存性)糖尿病患者さんです。近頃は患者さんも本当に良く勉強しているなあと感じさせられた一瞬です。

 再生医療というと読んで字のごとしで失われた身体の機能を再生させる医療です。トカゲの尻尾は切れても再生してまた生えて来ますが、それと同じような事を人間でやろうというわけです。(白状します、僕の生まれた鹿児島の鶴丸城趾にはトカゲが多数生息しており、僕の幼い頃の遊びの一つはトカゲの尻尾を・・・・・)再生医療は既に白血病の治療などでは臨床的に応用されています。でも人間の手や足を再生させるのはちょっと難しそうですね。しかし、総入れ歯になった歯をもう一度生えてくるようにしたり、大腿骨折で寝たきりになりそうな高齢者の骨を大急ぎで再生させたりといった事は比較的簡単にできそうです。その他にも外傷で神経のダメージを受けて動かなくなった手や足の神経を再生させると言った事もそれ程遠くないうちに実現されるでしょう。脳梗塞、脳出血の悲惨さからもある程度は免れるかも知れません。

 さて、我らが膵臓ではどうでしょう? 来年度の日本糖尿病学会のメインテーマの一つは再生医療です。皆さんご存知の通り血糖を下げるインスリンは膵臓のランゲルハンス氏島というベータ細胞の集まっているところから分泌されます。1型糖尿病ではベータ細胞が破壊されてインスリンが全く出なくなります。(この「お元気ですか?」をお読みの皆さんはほとんどが2型糖尿病の患者さんです。)ですから1型糖尿病を治すには
 ①インスリンの注射をするか、
 ②膵臓を移植するか、
 ③再生させるしか
方法がありません。

 インスリン注射もずいぶん進歩しました。近頃は超速効型のインスリンが発売されて、食事をしてからインスリンを打っても良いコントロールが得られるようになりました。それ以前は食事の30分前にインスリンを打たなければなりませんでしたから、ずいぶんと面倒で時間の制約があり、いざ決められた量がのインスリンを先に打ってはみたものの食欲がわかず食事が進まない時などは低血糖の心配をしなくてはいけませんでした。超速効型が出来てから1型糖尿病の患者の生活の質もかなり向上したようです。さらにイギリスでは鼻から吸い込むインスリンが臨床試験で良い成績を治めています。また日本でも(値段は高いですが)注射針を使わない注射器が市販されています。どうやって注射するのかって? ——(興味のある人は外来で僕に聞いて下さい。)
 移植というと例えば交通事故のドナー脳死患者から膵臓を出来るだけ傷めないように取り出して、そのまま血管をつないで移植する事を想像されると思います。移植を計画するぐらいの患者さんは結構病状が進んでいて、腎臓も悪くなっている事が多いようです。そこで、(4頁の図を参考にして下さい。)膵・腎同時移植Aが欧米では10歳以上から比較的広く行われており、良い臨床成績を治めています。しかし、大手術である上に一生免疫抑制剤を飲まなくてはいけない事などから日本で広く普及するかと言われると問題が残ります。
 大手術をしなくてもいいように開発されたのが、ランゲルハンス氏島だけの膵島移植Bです。膵島移植は2〜3年前にカナダで始まった治療ですが、今のところ最も早く実現化する可能性の高い治療法と言えるでしょう。この方法はまずドナー(臓器や細胞をあげる方)から膵臓を摘出し、非常に注意深い操作を用いて膵臓からインスリンを分泌するベータ細胞だけを取り出してこれを膵臓に注射するだけなのです。膵、膵島移植研究会も本年3月に設立され、日本でもより一般的に実現化しそうです。その対象となる患者数はおよそ5,000人と言われています。もっとも、この方法では手に入れる膵島のベータ細胞は人の膵臓から取り出すわけですから手に入れる膵島の数が限られています。ですから残念ながらすべての患者に新しい移植方法の恩恵が行き渡るというのは難しそうです。
 再生医療では、拒絶反応のない膵臓を丸ごと試験管の中で作る(臓器培養C—(イ))事が目標になります。この研究は、なかなか難しくて今のところアフリカツメ蛙の大きな卵を使って虫眼鏡で覗くような膵臓が出来た段階です。実用はまだまだ先の事でしょう。
 そこで誰でも考える事がなんとかして膵臓のベータ細胞を試験管の中で創りだせないかという事です(膵島培養C—(ロ))。クローン人間が出来てもおかしくないのだからそのくらいの事は簡単だと考えられると思いますが、それがそうは行きません。クローン動物では一つ一つの細胞を人間が作るわけではありません。むしろ、卵子と精子の受精の極めて早い段階で手を加えるだけで後は自然が仕事をしてくれます。膵島を試験管の中で作り出すには、必要な栄養や蛋白などをタイミングをずらさず、必要なだけ過不足なく加えていくのですから、極めて難しい事です。そこで出来るだけ膵臓に近い細胞でどんどん増えてくれる活きのいい細胞を探す事になります。それらが体性幹細胞や胚性幹細胞(ES細胞)といわれているどんな細胞にでも分化する能力を有する細胞です。幹細胞を、インスリンを出すベータ細胞にするにはいくつかの転写因子と言うものが必要な事が分かっています。そこで、その転写因子を細胞の中に入れ、手間ひまかけて細胞を増やすという事がある程度可能です。実際、ES細胞からインスリンを分泌する細胞を作成し、これを糖尿病のマウスに注射して血糖値を下げた、という報告が本年の日本再生医療学会で発表されました。
 最後に、体に残っている細胞を元気にして、膵臓のベータ細胞をよみがえらせる方法があります。これが一般に考えられるところの遺伝子治療C—(ハ)です。僕が想像するよりも意外と早く、注射一本で1型糖尿病が治る時代が来るかもしれませんね。

 ところで皆さんはほとんどの方が2型糖尿病です。残念ながら再生医療の恩恵を受けるようになるのは1型の人が先でしょう。これからも治療の基本を守ってしっかり治療を受けて下さい。

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